肥満遺伝子

たくさん食べても太らない人、逆に水分を取るだけでも太る人がいるのってどうしてでしょうか?そんな疑問を【肥満遺伝子】の観点から肥満遺伝子について考えてみました。


肥満遺伝子(Ob gene)

ここでの肥満遺伝子(Obese Gene)とは肥満を起こす遺伝子ではなく、肥満を防ぐ遺伝子を指しています。

ふつう動物は、体に十分な脂肪が蓄えられていると自然と食べる量を減らし、体のエネルギーが足りないと食べる量を増やすということを自動的に行うために、体の脂肪の量はほぼ一定に保たれます。

ところが、この自動調節機能が働かないため異常に食べ続け、ふつうより2倍から3倍の体重になってしまいます。

ただ単にたくさん食べるだけではなく、動きが鈍く、体温も低く、エネルギーの消費量が低いこともあって、体にたくさんの脂肪をため込んでしまうのです。

肥満は、両方の親から肥満の原因となる遺伝子を受け継がなくては肥満になりません(劣性遺伝)。

肥満を防ぐ物質を作る遺伝子に異常があって、この物質を作れないということが考えられました。

この物質(肥満を防ぐ)は何か?

ポジショナルクローニング法 (Positional cloning method)

肥満原因の遺伝子が染色体DNAの中でどの場所にあるのかを直接決めてしまう方法です。

肥満(ob)遺伝子は、これまでに知られていなかった全く新しい種類のタンパク質を作ることがわかり、ob遺伝子が作るホルモンを1995年7月に『レプチン(leptin)』と名付らてました。

レプチンという名前はギリシャ語で「やせ」を意味するレプトス(leptos)」に由来する。

このタンパク質は脂肪細胞で作られ、自分の体にどのくらい脂肪があるかを感知して、その情報を脳に伝える物質ではないかと予想されています。

つまり、本来の正常な脂肪量より体内の脂肪が増えてきたらその分泌を増やして「脂肪は十分に摂取された」という情報を脳に送ります。すると、脳は「食べるのを減らしなさい」「貯めた脂肪をエネルギーに変えなさい」とカラダに命令を出します。

そして、元の正常な脂肪量に戻してくれるのです。

【マウスの研究】
レプチンがどのように作用するか?

マウスの腹腔内にob遺伝子に由来するホルモンを投与すると、食べる量が減り、糖の代謝が盛んになってたくさんのエネルギーを消費するようになり、その結果、体重が激減した。

この体重減少の原因は脳の中にレプチンの情報を受け取る仕組みができ、脂肪細胞だけが減少して起きることが判りました。

【レプチンによる体重の調節】
動物の体の中に必要以上の脂肪が貯まると、脂肪細胞はレプチンを盛んに合成します。

レプチンは血液中を流れて脳に届き、脳やその他の部位はその情報によって食餌の摂取量を減らしたり、エネルギーを余計に使ったりします。

逆に脂肪が足りないとレプチンは少ししか作られなくなり、動物はエネルギーの消費を減らそうとします。

肥満は、体に脂肪がありすぎても脳はまだ脂肪が足りないと錯覚して、よりたくさん食べて脂肪を異常に貯めてしまうのです。

このようにレプチン遺伝子に変異があると重度の肥満症を示すことが明らかになっている。

ヒトのレプチンをマウスに注射してみたところ、マウスのレプチンと同じように効果があることがわかりました。

レプチンは高脂肪食によって誘導された肥満にも効果があるという事実によって、ヒトの肥満にも効果があるのではないかという期待がもたれています。

しかし、一般にヒトの肥満は、複数の遺伝子変異の組み合わせに環境因子が加わって生じます。

現在までにマウスに注射した実験では特に副作用も見られないので、レプチンが肥満の夢の特効薬になる可能性を示しています。

ただしそれはあくまでも「可能性」であって、実用化までにはまだまだ調べなくては行けないことや解決しなければならない問題点が沢山あります。

セロトニンレセプター(A serotonin receptor)

セロトニンは神経伝達物質と呼ばれる物質の一つで、神経細胞から他の神経細胞に情報を伝える働きがあります。

神経伝達物質にはいろいろな種類があり、食欲に関係する一群の神経細胞は、このセロトニンを利用しているのではないかと考えられています。

セロトニンの情報を受け取るセロトニン受容体には、いくつかの種類があることが知られています。

セロトニン受容体のHT2Cと呼ばれるものが食欲に関係のある神経の働きを担っています。

満腹になったときには、「もう食べたくない」と感じますが、その時、脳でセロトニンが放出されて他の神経細胞に伝えられることが確認されています。

なぜダイエットが難しいか。
ダイエットをすると血中のトリプトファン(セロトニンの材料になるもの)というアミノ酸が減ることがわかっています。

このトリプトファンは体内で作ることができないので、食物から摂るしかありません。

ですからダイエット中の人は、トリプトファンが十分に作られないため、「満腹になった」という感覚が起こりにくく「食べたい」という欲望に負けてしまいやすいというものです。

また、ビタミンB6と合成して、はじめてトリプトファンから有効なセロトニンが作られます。

そしてセロトニンは睡眠中に作られるので、よく眠ることも大切です。

【トリプトファンが多く含まれる食品】
 赤身の魚・肉類・大豆類・乳製品など

ヒトの肥満関連遺伝子(A corpulence of the Homo sapiens-related gene)

ヒトの肥満というのは、とても複雑な現象であり、たくさんの遺伝子が関わっています。少なくとも30種の遺伝子が肥満しやすいという素因に関わっていると推測されています。

その中のひとつ【アドレナリンのβ受容体】という遺伝子は、脂肪や糖の代謝を調節する働きのあるホルモンですが、先のセロトニンと同じように神経伝達物質でもあります。

この【アドレナリンβ3型受容体】の遺伝子を調べてみますと、何人かに1人は変異を持っていることがわかりました。

そしてこの変異を持っているヒトと持っていないヒトを比較してみると、変異を持っているヒトの方が成人してから肥満になる率が高いことがわかったのです。

これは1995年の医学雑誌に発表され、ヒトの肥満と関係のある変異として注目されています。

みんなさんへ

このページで遺伝子と肥満の関係ということで、3つの例を挙げました。

ここからわかる重要なことは、肥満というのは、環境的な要因に加えて遺伝的な要素も原因のひとつだということです。

やせている人からみると、「太っている人は食べる量を減らせばいいのだから、やせられないのはただその人に節制心や忍耐力がないのだ」と思いがちです。

確かに食べる量を減らせばいいのですが、ここに書いたようにヒトの食欲というのは、場合によっては遺伝的要因に大きく支配されていることが分かります。

そのヒトがエネルギーを消費する量も遺伝的影響を受けるのですから、肥満に悩んでいる人は、単純に忍耐力のなさなどを責められるべきではないですし、自分を責める必要もないのです。

人によってはダイエットは非常に難しいのは仕方ありません。だからこそ、肥満の治療には安易な方法に頼ることなく、長い期間かけた着実な方法が必要になると私は思います。

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